大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)17075号 判決 1994年8月25日

主文

一  被告は原告らに対し、原告らから金一〇億三八〇〇万円の支払いを受けるのと引換えに、別紙物件目録(四)記載の建物を収去して同目録(一)ないし(三)記載の土地を明け渡し、かつ、平成三年一二月一日から右明渡し済みに至るまで、一か月金三万四九三九円の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の、各負担とする。

理由

一  請求原因1(原告らの本件土地所有)、2(賃貸借契約)、3(被告の本件建物所有及び本件土地の占有)の各事実は当事者間に争いがなく、同4(原告らの異議)の事実は当裁判所に顕著である。

二  そこで、原告らがした異議に正当事由があるか否かにつき検討する。

1  原告らの事情について

(一)  《証拠略》によれば、原告らは、本件土地を含む新宿区西新宿六丁目六九六番一宅地七一九・九一平方メートル、同六九五番一宅地六〇七・〇六平方メートル、同六九六番三宅地二三・八〇平方メートル(以下これらを「本件原告ら所有土地」という。)等の土地及び同七一三番六の土地に存在するカーサ西新宿(一〇階建のマンション)の区分所有権を有しており、原告福造らは、その一室に住んでいるが、本件土地周辺が新宿区により西新宿六丁目西部地区として地区計画が指定されるなどして再開発の機運が高まつてきたことから、右各土地及びカーサ西新宿の区分所有権を提供して再開発に協力し、江戸時代から本件土地一帯の地主である秋元家のシンボルとなるような建物を建築し、右建物及びその敷地に一定の権利を持ちたいと考え、右再開発の障害となる本件建物を所有する被告に対して、再開発(立替)のための協議機関である街づくり協議会に参加するか、再開発に反対であれば、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求めていることが認められる。そこで、本件土地が存する西新宿六丁目西部地区の状況等につきみてみることとする。

(二)  《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 昭和三五年六月一五日に首都圏整備計画の一環として、旧都市計画法に基づき東京都市計画新宿副都心計画が決定された。この副都心計画は、淀橋浄水場のあつた場所を中心にその周辺約九六ヘクタールを再開発し、中心地には東京都の政治・経済の中心の一部を形造るとともに、その周辺に業務型ビルと住居型ビルを建設配置するという多心型都市構造の都市建設を目指すものであつた。そして、本件土地は、右副都心区域の北西部にあり、「西新宿六丁目西部地区」と呼ばれ、副都心区域内の超高層業務街と、区域外に隣接する住宅地との接点の地区に位置している。

このような計画決定に基づき、昭和四〇年代には、基盤整備として道路整備が行われ、副都心計画区域の北側の青梅街道、南側の甲州街道、西側の一二社通りが整備され、区域内の道路も整備された。

そして、この副都心計画区域の中心となる淀橋浄水場跡地は、都市計画法上の特定街区の制度により開発され、超高層ビル街を形成し、平成三年四月には、その中心をなす東京都庁も開庁した。

(2) 本件土地が属する西新宿六丁目西部地区は、従前は木造二階建を中心とする住居が多く存在する地区であつたが、現在は、都市再開発を促進すべき地区と定められている。

そして、新宿区は、前記のような都市計画に従い、昭和六二年には、西新宿六丁目西部地区を六つのブロックと三つの計画保留地区に分け、それぞれのブロック別に街づくりを行う(例えば、各ブロック別に住宅棟、業務棟を配置する。)こととする街づくりの「基本計画案」を提案したが、平成三年一二月一六日、都市計画法一九条一項によりこの地区の地区計画を決定して告示した。

この地区計画は、区域の整備・開発及び保全に関する方針と、地区整備計画とからなつており、方針については、前述のごとき本件地区の特性を述べ、新宿副都心の機能強化を図りながら、住居の環境の保持と業務の利便の増進等により良好な街区の形成を図ることを目標とし、市街地再開発事業等を活用して、街区単位での土地の健全かつ合理的な高度利用を図るとともに、住居と業務を適正に配置して、調和のとれた町造りを行うことを土地利用の方針としている。また、地区整備計画としては、区画街路一号、二号の建設等を定めており、建物の高さについては、一六〇メートルを限度とする高層ビルによる高度の土地利用を図ることとしている。

そして、この街区の形成については、専門家による検討も経て、八の街区に区分された。

(3) 現在、西新宿六丁目西部地区のうち、すでに昭和六一年六月に高層ビルを建築し終わり、実質上再開発を完了した、グリーンタワービルのあるブロック(本件土地が属する第六ブロックの東隣のブロック)、西南角の新都心ダイヤモンドマンション、第三丸善ビルを中心とした比較的新しいビルが多い部分(第六ブロックの西隣のブロック)及び淀橋第三小学校を中心とした部分(「第四ブロック」であり、第六ブロックの北隣)を除いた、五つのブロックにおいて再開発に取り組んでいる。そして、第一ブロックと第三ブロックでは、都市計画法に基づく市街地再開発事業が認可になり、現在実施中であり、第三ブロックについては、平成六年一〇月完成予定である。この第三ブロックは地上三一階建の業務棟と地上二二階建の住居棟の二棟の高層建物を中心とする計画で、これに付帯する諸施設が建設されている。第一ブロックの計画もほぼこれと同様(地上二五階建の業務棟と地上二〇階建の住居棟等)で、前記の西新宿六丁目西部地区の地区計画に副つているものといえる。

また、第二ブロックと第五ブロックの推進会や勉強会を組織し、再開発について研究中であるが、法定の再開発であるか、任意の建替えであるかは別として、早晩第一、第三ブロックと同様の計画が作成実行されることになることが予想されている。

本件土地の属する第六ブロックの再開発計画(建替計画)では、現在、三五階建の業務棟、二三階建の住居棟が計画されており、これらは、基本的には、本件土地の属する地区計画に合致しているものということができる。

(4) 新宿区にあつては、専門家に街区の形成についての研究をさせると同時に、全額出資して、「東京都新宿区の都市整備に関連する事業を推進することにより、都市機能の維持増進と生活環境の整備改善に努め、もつて区の健全な発展と区民の福祉の向上に寄与することを目的」として都市整備公社を設立し、町造りの手助けをしてきた。

(5) 各街区の地権者たちも、各街区ごとに集まりを持ち、勉強会や推進会等を結成し、「再開発」についての研究を行つていつた。

そして、本件土地の存する第六ブロックにおいても、平成元年六月二二日、街づくり協議会第一回集会が開催され、会長(原告福造が就任)、副会長を選任し、規約を定め、ついで役員を定めるなど組織を形成していつた。右協議会は、一か月から一か月半に一回程度の割合で開かれ、東京都、新宿区、あるいは都市整備公社等とも相談を重ねながら、計画を進めてきた。

(6) 第六ブロックにおける再開発の手段については、平成二、三年ころには、すでに空地化が相当進んでおり、非耐火建築物が多く取り壊され、耐火建築物の非耐火建築物に対する床面積が三分の一をはるかに超えていたため、法定再開発の手法をとることができず(都市再開発法三条二号)、合意による再開発の方法をとることとなつた。

(7) 街づくり協議会は、発足以来地権者に対して再開発事業への参加を呼び掛けており、現在第六ブロックの地権者で再開発事業に反対しているのは、カーサ西新宿のマンションの住民(全体で約一〇〇戸)のうちの六軒を除けば、被告のみである。なお、カーサ西新宿は、昭和五四年に新築された鉄骨鉄筋コンクリート一〇階建の建物であり、第六ブロックの東端にあることから、この部分を外して再開発することも考えられたが、管理組合の臨時総会の決議により街づくり協議会に参加し、再開発に参加することとなつたものである。

(8) 原告らは、本件土地が、第六ブロックのほぼ中央にあり、その再開発(建替)をするにつき、必要な土地であることから、被告との賃貸借契約が終了する三年程前の昭和六三年一一月ころから、被告に対してもこの再開発に参加するように呼び掛け、街づくり協議会結成後は、再三再四協議会に参加するよう要請したが、被告は頑として応じない。

(9) 原告らは、右のような本件土地ないしその周辺の現状にあつて、江戸時代から秋元家の資産として保持されてきた本件土地を含む所有土地を有効に活用し、シンボリックなものを残したいと考え、自己が所有し居住しているカーサ西新宿の区分所有権等も含めてこの再開発に提供し、本件再開発を進めたいと望んでいるものである。

(三)(1) 被告は、副都心計画は私人を拘束する規範性を有しないとか、本件地区には都市再開発法の市街地再開発事業の前提となる東京都知事の定めた都市計画は存しないとか、原告らのいう「再開発」には、新宿区の指導などもなく、都市整備公社も、街づくりに向けた指針としての援助・助言をしているだけである等種々主張するが、要するに、原告らの主張する「再開発」は、公の再開発ではなく、私的な「建替え」にすぎないと主張するものであろう。

確かに、原告らの主張する「再開発」は、原告らも自認するとおり、都市再開発法に基づく法定の再開発ではなく、地権者が任意の話合いで行う「建替え」にすぎないが、このような私的な「再開発」(共同建替え事業)を行うことも地主が土地の使用を必要とする事情の一態様というべきであり、その背景事情として副都心計画や、新宿区の定めた地区計画を考慮するのが許されないいわれはない。

(2) 被告は、原告らの行為は、フジタら私企業が営利追求目的で行う地上げへの加担にすぎないと主張し、《証拠略》によれば、本件土地付近はもともと「最上恒産」が地上げに入つたものであり(ただし、同社が地上げしたのは、主に本件土地より南の第六ブロックの南側部分である。)、同社が地上げした土地をフジタが買い受け、その後一部は三菱商事に所有権移転した(あるいは所有権移転請求権の仮登記をつけた)ものであること、今まで原告らに対し借地を明け渡した者については、三菱商事らが賃借権の譲渡を受け、その譲渡代金を借地人らに支払つていること、一部の土地については原告らから三菱商事に売り渡されていることが認められる。

しかしながら、《証拠略》によれば、原告らが先祖代々所有する土地でありその中心的な土地である本件原告ら所有土地等については、原告らは、所有権を譲渡していないのは勿論(被告は、原告らが本件土地を三菱商事に譲り渡しているとも主張するが、これを認めるに足りる証拠は何らない。)、賃借権の設定登記等もしていないこと、原告らは、前記借地人に対する立退料が巨額で負担できなかつたため三菱商事等に対する賃借権譲渡の承諾の形をとつたものであり、原告らとしては、本件原告ら所有土地の所有権やカーサ西新宿の区分所有権をもつて再開発に参加しようとしているものと認められるから、原告らが単にフジタらの地上げに加担しているものということはできない。

(3) 被告は、被告もまた地区計画に適合しながら単独で建て替えることができると主張するが、何ら具体的な計画を主張・立証しない。

(4) 被告は、本件土地を除いても再開発が十分可能であるとして乙第一一四、第一一五号証を提出するが、その正確性、現実性につき確かな担保がないのみならず、その階数もせいぜい一一階建、九階建にすぎないというのであり、これではそもそも再開発が成り立つか疑問である(例えば、《証拠略》によれば、現在の計画ではカーサ西新宿の区分所有者は一・三倍の床面積を得られる予定になつていることが認められるが、被告の案によれば、これらの数字は相当小さくなる筈であり、そうすれば、そもそも再開発自体不可能となる事態も十分考えられる。)。

2  被告側の事情について

《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

被告は、大正二年に群馬県吉岡村で生まれたが、教職につき、最後は中学校の校長をしていた者であり、昭和二六年本件土地を喜之助から借り受け、そのころ木造平屋建(現況二階建)の本件建物を建築して以来本件土地に住んでいる。現在、被告は、妻と長男の滋一家とともに、本件建物に住み、本件土地に愛着を抱き、死ぬまで本件土地に住んでいたいという強い希望を持つている。一方、被告は、本件建物のほか、本件土地の近くの新宿区西新宿七丁目一一九番三四宅地一九二・〇三平方メートル及びその地上の鉄筋コンクリート造り六階建のビル(新都心ビル。建物は妻、長男と共有)を、また中野区《番地略》宅地三三五・〇七平方メートル、《番地略》宅地二一・八一平方メートル(二筆とも妻と共有)を所有している他、故郷の群馬県北群馬郡吉岡村に約四〇〇坪(実際は一〇〇〇坪位)の土地を、また東京都西多摩郡瑞穂町に二七〇坪程度の土地とリースマンション(土地、建物とも妻、長男と共有)を所有しており、特に、西新宿のビルは本件土地から歩いて一五分程度のところにあつて、現在主に事務所として使われているが、元来は住居用として造つたものであり、また、中野区の土地は本件土地から歩いて三五分程度のところにあり、従前二棟の賃貸住宅(昭和四七年、四九年に建築)を建てていたが、本訴係属中に空地とし、平成五年八月に鉄筋コンクリート造り三階建(床面積一階一七〇・八六平方メートル、二階一六六・〇三平方メートル、三階一六六・〇三平方メートル)の共同住宅を建て直した(妻、長男と共有)。また、被告は、昭和六三年ころ、本件建物が建築後相当年数もたち、長男一家と同居して手狭になつたこともあつて、原告らの承諾を得て建て替えようとしたが、原告らは承諾しなかつたということがあつた。

3  原、被告間の交渉の過程について

(一)  《証拠略》によれば、次の事実を認めることができる。

原告らは、被告との賃貸借契約の期間が満了する三年程前の昭和六三年一一月ころから、被告に対しても第六ブロックの再開発に参加するように呼び掛け、街づくり協議会結成後は、地主の中の「当主」であり、協議会の会長でもある原告福造が中心となり、被告に対し、再三再四協議会に参加するよう要請したが、被告は原告らのいう再開発は最上恒産、ついでフジタ及び背後の三菱商事がする地上げにすぎないとして強く反発し、一切話し合いに応じようとしなかつた。そこで、原告らは、協議会に参加し再開発に協力するか、立ち退くことを求めて新宿簡易裁判所に調停を申し立てたところ、被告において再開発の法的根拠につき釈明を求めたので、原告らは、本件再開発は、土地の地権者が任意に話し合つて再開発をする方法である等と書面で説明したが、被告は回答が拒絶されたと言つて、話合いを進めようとしないので、調停は不調に終わつた。ところが、本訴係属直後に、被告は、立退を前提とする話合いもできるとの態度を一旦とつたので、当裁判所は職権で調停に付したが、調停の席上で被告は、早期解決のためいかなる交渉にも臨む用意があると言いながら、本件土地(約五五坪)の借地権の交換物件として、渋谷区神南一丁目の一二二坪の土地、港区南青山六丁目の三四四坪の土地等(いずれも所有権)を提示し、ついで売却価格として、坪二億五〇〇〇万円(総額一二七億五〇〇〇万円)を提示するなどして、その要求があまりに過大であつたので、調停は不調に終わつた。本訴手続中に行われた和解手続きにおいても、原告らが、早期解決の観点から、再開発が最小の規模で何とかできるように本件建物をそのまま移動する案も提示したが、話合いは成立しなかつた。

(二)(1) 証人中島滋は、右代替物件を提示した上申書の作成や金額の提示は、滋や被告の妻が被告に相談なくしたものであり、被告は、これまで立退を考えたことは全くないと供述するが、当裁判所が調停に付したときに被告自身出廷していたことは本件記録上明らかであるし《証拠略》によれば、前記調停には同証人が被告の代理人として出席し、調停打切り後当裁判所で行つた和解にも同証人が被告と同席して意見を述べていたことがそれぞれ認められることからして、前記供述はそのままには採用できない。

(2) 被告は、街づくり協議会に参加することを強制されるいわれはないと主張し、法律的に参加が義務づけられるわけでないことはもとより当然であるが、協議会への参加や原告らとの話合いを頭から拒否していることは、正当事由を判断するにあたり、そのこと自体あえてマイナスとまでは評価しないにしても、決してプラスに評価されるべきことではない。

4  以上の事実を前提にして正当事由の有無を考えると、まず、被告は現に本件建物に居住しているのであるから、本件土地使用の強い必要性があることは確かである。しかし、原告らも、本件土地の返還を受け、本件土地を含む本件原告ら所有土地等をカーサ西新宿の持分権とともに第六ブロックの再開発のため提供し、そこに他の地権者らとともに共同で建築する建物や敷地に一定の権利を取得し、ここに居住しようとしているものであること、本件土地は位置的に第六ブロックの再開発をするために必要な土地であり、右再開発は、新宿副都心計画地域の中にあり、「西新宿六丁目西部地区」として地区計画を立てられた本件土地付近の状況に沿つた内容であり、他のブロックでも法定の再開発や任意の建替え事業が進展しつつあること、第六ブロックの地権者らは協議会を設置し、新宿区が民間の再開発に対して助言等する機関として設立した都市整備公社の助言の下にこの再開発を行おうとしているものであることなどの事情を考慮すると、原告らにも旧借地法六条二項、四条一項但書にいう本件土地使用の必要性があるものというべきである。そして、前記認定の事実や被告において代替物件を所有していること(特に中野区の土地については、本件土地からかなり近いところにあり、しかも、本訴係属中に一旦は空地となつたものである。)、本件建物は木造で現在ではすでに建築後四〇年以上経過し、被告も建替えを計画したこともあるものであること、及び本訴提起後の調停中に被告が代替物件や立退料の提案をしたように、被告自身本件土地から絶対に立退ができない状態とも窺えないこと、被告が本件土地に愛着を感じ、本件土地から離れたくないのであれば、再開発に参加し、他の街区と同様に街づくり協議会が建築しようと検討している住居棟に権利を取得して住む道もあることなどの事実をも考慮すると、原告らにおいて補完事由として相当の立退料を支払えば、正当事由が備わるものというべきである。

なお、《証拠略》に照らすと、カーサ西新宿の住民のうちまだ最終的に同意をしていない六軒については、速やかに同意を得られるかは疑問があり、カーサ西新宿については最終的にどのように解決されるかは未確定なところが残つているといわざるを得ないが、《証拠略》によれば、右の者達も一切聞く耳をもたないというような頑なな態度をとつているわけではないことが窺われることやカーサ西新宿の位置等を考慮すると、右の点を余りに重視して現時点で原告らが主張する再開発自体が不可能ないし著しく困難であり、原告らに土地使用の必要性がないものと断じて本件明渡し請求を棄却するのは相当ではない。

5  鑑定人中山善次の鑑定の結果によれば、鑑定時(平成五年三月一六日)現在の本件土地の借地権価格は一〇億三八〇〇万円であつたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。そして、《証拠略》によれば、原告福造は、右金額を支出してでも本件土地の返還を受けたいという希望を持つていることが認められることその他前記認定の諸事情を考慮すると、本件立退料としては、右一〇億三八〇〇万円が相当であるというべきである。

四  以上によると、原告らの本訴請求は、一〇億三八〇〇万円の支払いを受けるのと引換えに本件建物を収去して本件土地を明け渡すこと及び使用損害金を支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、仮執行の宣言は相当ではないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 滿田明彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例